誤配。
Uber Eatsの誤配。
いっときブツブツ言ってる人がいたな、と我が身に降りかかって初めて思うくらいには見知らぬ世界の出来事であった。
今日の昼までは。
弊社の色々により、四半期に一度『ひとり3,000円までの予算でランチしてらっしゃい』と促される。
こんなご時世なので『在宅勤務日にUberでも頼んでオンラインでランチミーティングしましょう』となった次第である。
そもそも、Uberを全く使わない暮らしなので要領を得ていない。
1度だけ利用したことはあるが、Uber慣れした人の家でお得に食事するため。何から何まで丸投げ。
利用履歴を見たら、昨年の今頃だったようだ。なんだか懐かしい。1年は早い。
さておき、一食に3,000円もかけて良い!となると、ギリッギリの峠を攻めたくなる。ケチ心が疼く。
とにかく食事代を3,000円に近づけるチキンレースの開幕である。食べたいものは海鮮丼なんだけど。
兎にも角にも、Uberを知らない。
アプリのUIが不親切で心が折れそうになる。
3,000円を使い切りたい、という情熱だけがアプリと向き合う気力をくれる。
何が評判のメニューか分からないし、信頼が置けるかも判断しかねる。なので、高ければ一定の満足は得られるのでは?と粗い思考で2,500円のマグロの山かけ丼を注文することにする。
何より、お刺身と自然薯が好きだ。たまらん。
諸々のカスタムを施し、会計は2,986円。上出来である。
部署で約束した時間の15分前に受け取れるよう発注。会心の段取り。
アプリによると非常にスムーズに進行しているようで、お店から自宅までの地図の上を軽快に自転車のアイコンが走っている。
なんだかワクワクする、そりゃUber Eatsは流行るね。ラクだし楽しげだもの。
チャイムが鳴る。
非対面で受け取るようお願いしていたのでドライバーさんが去るのを待ち、アプリで受け取りの連絡をする。ドアを開ける。そそくさとお楽しみを回収。素気ない白いビニール袋に包まれた、お楽しみ。
手に取る。ずっしりと重い。
袋の底に手をやる。温かい。
…温かい?
確かに、酢飯がほんのり温かいタイプのお店はある。だが、さすがにこの温かさはマグロの山かけ丼には不適切なのでは?火が通っちゃわない?
ん?お??と思い、ビニールを解く。
ビニールを…ビニールを……
会いたいあなたに。そう、マグロのお刺身と山かけに。
フタに何か貼ってある。
…お酢?酢飯もカスタムする時代なのかしらね。
まぁいいや、ありがたくいただきましょう。
白いビニールから漂う醤油のきいた香ばしいタレの香り。
たくさんの刻み海苔、浅葱、半分に切られた煮卵、そしてメンマ。サイコロ状のたっぷりのチャーシュー。
そして、この下のニョロニョロは…麺…?
フタに何か貼ってある。
台湾…まぜそば……大盛り…?
ハバネロ…パウダー………?????
誤配〜〜〜!!!!!
これが噂に聞く誤配〜〜〜〜〜!!!!!!!
ごは、い……!
誰かが心待ちにしていたであろう台湾まぜそばを丁重に保護し、アプリを開く。
こういう気の重い連絡は、うんと面倒なプロセスを踏まされると知っている。
ただでさえ不親切なUIに嘲笑われているような気がしてくる。誰かウソだって言ってほしい。
何度かの失敗を乗り越え、誤配の連絡を済ませる。
まずまずのスピードで返金をしてくださり、お詫びにと500円のポイントを付与してくれた。
こなれた対応に感謝しつつ謝罪に慣れるというのは物悲しいな、と思いを馳せる。
ウソをつきました、馳せてはいません。
そして、お金が返ってきたからOK!という話では全くないのだ。
お昼ごはんは、3,000円は、マグロの山かけ丼は、そして、ランチミーティングは……
ただ空腹を満たしたいわけではない。
会社から与えられた3,000円を使い切り、空腹を満たしたいのだ。
好きなものは食べられなかったけど、無料でまぜそばが食べられてラッキー⭐︎なんて単純な話ではない。
あと、食べ物は極力無駄にしたくない。
劇場版ドラえもん・のび太の日本誕生ののび太くんのように『あのときのラーメンのスープ、飲んでおけばよかった』と雪山で倒れたくはないのだ。
一連の落とし所が見えない。
『わたしのマグロの山かけ丼はどこに?』『ていうか、台湾まぜそばはどうしたら?』など、Uberのことをあまりにも知らない。
そもそも、知らない方がいい。Uber社だって、こんな不名誉なことを周知されたくないだろうし…
すると、同僚が『誤配は食べちゃって大丈夫なんですよ』と教えてくれた。
食べてもええのんか〜〜〜い!
早く食べた方が良いであろう台湾まぜそばvsどうしても3,000円を無駄にしたくないヒラ社員。
しかし残酷なまでに台湾まぜそばの口ではない。全くない。まぜそばは今日中になんとかする、と心に誓う。だから許してくれ。
3,000円の予算に詫びポイントの500円を追加し、3,500円の再注文を決意。
最初より豪華なものが食べられる!やったー!
負けて勝つ、とはこのことか。
ごはんは十五穀米にしちゃうし、みぞれぽん酢の唐揚げもつけちゃう。3,482円!
我ながら、惚れ惚れするような攻めっぷり。
食い意地を張らせたら町内会くらいでは勝ち上がるのではないかと思う。
再注文ぶんが届くまで、あと40分くらいかかる見込みらしい。食べ物を無駄にするのは気後れする。ていうか、単純におなかすいた。空腹は敵。
辛いものが苦手なのでハバネロパウダーの文字に及び腰になっていたものの、よくよく見てみるとハバネロパウダーの小袋らしきものは見当たらない。
匂いを嗅いでみても、いかにも辛そうな刺激的な雰囲気はない。
…いけそうな気がする!
丼を夕食にし先に麺をいただく方が味も落ちないだろうし、最初からそうするべきだった。
お箸を差し込んでみると、見た目以上の大盛り。
男性が月曜日から気合いを入れるために注文したのかな…代わりに届いたであろう山かけ丼は少なかったかしら…と見知らぬサラリーマンを描きつつ、全体をよく混ぜる。
どんな店のものかも分からない麺をすする。不思議な体験である。
ありがたいことに、見た目以上においしい!
胃もたれしないかと心配だったが、食べきれそうだな…と思った矢先であった。
辛い。
辛い…辛い……
ありえん辛い………!!!!!
ものっそ辛い、麺に狂気を絡めるな〜!!!
何も中和するものがない。ツラい。
ハバネロパウダーはてっきり別添の小袋かと油断していたのだが、どうやらタレに混ぜてあるらしい。
よ〜〜〜く見たら、なんだか粉っぽいものが見える。えぇ〜…、、、
後から辛みが押し寄せてくる。
さすがにこれは胃が死ぬのでは…?と判断し、ないものとして扱うことにする。
素人が丸腰で激辛フードファイトしてはいけない。
ロンドンハーツのドッキリで泣きながら激辛麺を食べていたオズワルドの伊藤くんが脳裏を掠める。
10万円でも賭されていない限り、無茶をして食べることはないのだ。
激辛への耐性がないし準備もなかったので、わたしの舌を宥めるものがない。
困った、と冷蔵庫を見渡してみたらヨーグルトがあった。寝坊をして朝食をサボった自分に感謝が止まらない。
ヨーグルトでハバネロの刺激を鎮めつつ、アプリを覗き再びの丼の現在地を確かめる。
10分の前倒しで届けてくれるらしい。ありがたい。
そうこうするうち、自宅へと丼がやってきた。
注文から3時間弱。待ちに待った対面である。
アプリで見た写真の1/2サイズのマグロだって許せる。だって、ハバネロパウダーなんて入ってないんだもの。
あと、身銭ではない。それだけで優しくなれる。
今朝が資源ごみの日だったわね…次は木曜なんだよな〜、とボンヤリ思いながら台湾まぜそばから掬いあげたチャーシューと煮卵を口に運ぶ。
負けて勝つ、なんて夢物語なのだ。
負けは負け。ツイてない日はツイてない。
そんなことを思いながら、TVerでミステリと言う勿れを視聴する週はじめ。
明日は霜降り明星・粗品くん企画の【粗品に勝ったら10万円】を観に行く日。きっと、このプラチナチケットのために今月の運は尽き果てたのであろう。おわり。