"人にあまり話さないが、確かに好きな食べ物"は存在する。
そっと心にしまってはいるが、どうしても食べたい…悪魔が囁く甘美な食べ物。
誰しも、覚えがあるのではなかろうか。
わたしには、たくさんある。
このごろ特に気に入っており、ベストを見つけるべく様々なメーカーのものを試したく思っている食べ物がある。
…ゆで卵と生ハム。
別々に食べるわけではない。
殻を剥いたゆで卵(半熟を少し過ぎたくらいが良い)に、おもむろに生ハムをのせては齧る、のせては齧る、のせては…を繰り返すだけの食べ物だ。
呼び名などない。ゆで卵に生ハムをのっけたやつ。ただそれだけ。
ゆで卵と生ハム。双方にとって非常に野蛮な楽しみ方であると思う。だが、どうしたことか麻薬のような常習性を感じずにはいられないのだ。
ちなみに、薬物のことは『ダメ、ゼッタイ。』であること以外全くの無知である。さすがに一般的な教育の範囲でしか知り得ない。
さておき、わたしは先天的にコレステロールと中性脂肪の値が異様に高く、医師からはそれらを刺激するような食事は控えるよう指導されている。そこから導くと、ゆで卵を常用することは薬物乱用に準ずる悪の行為ではないか?と思えてくる。
ゆで卵の乱用をそそのかしてくるのは『医学的な根拠はない』『海外では因果が認められていない』と、どこかで見かけた曖昧な文献たちである。見知らぬ研究者諸氏のおかげで、卵を食すという禁忌を犯すことができている。ありがとう。
別の一派が『日本人はコレステロール値が食品に影響されやすい』との説を挙げていたことは無視している。甘言に弄され、自我を見失ってこそ薬物。健康に対する高い意識など、そびえ立つ食い意地を前にしては全くの無力なのだ。
健康をかなぐり捨ててでも極めたい、ゆで卵と生ハムのマリアージュ。
結局どれが最高なのさ?って話だけれども、まだ全く最適解に辿り着かない、という体たらくなのである。
現在の最高得点はセブンイレブンのゆで卵と、同じくセブンイレブンの生ハム(安い方)の組み合わせ。
生ハムは極力安価で大味、ゆで卵にはほのかに塩味がついているものが良い雰囲気を醸すことは分かってきた。
生ハム自体が塩味の強い食べ物なので、ゆで卵に味はついていない方が良いのでは?という意見もあるだろう。答えはNOである。ゆで卵がプレーンなものであると生ハムとゆで卵を繋ぐものがなく、心なしか二者の味わいが分離して感じられるのだ。
塩分など気にしてはならない。美味しさを前にして、健康のことなど構ってはいられない。
淡い塩味がキーワードなのは何となく理解できたが、生ハムの選定がまた困難なのだ。
"気軽にパクパク食べられる"という魅力を損ないたくはないので、極力上質ではない方がよいのは確か。
だが、安価で味付きのゆで卵と合わせたときに良い塩梅の塩味の生ハム、となるとなかなか出会えないのである。卵の黄身に生ハムの持ち味を消されてはならないし、生ハムがゆで卵のことを無にしてもいけない。お互いに仲良くいられる中庸が滅多と出会えないのだ。こちらからトーナメントを組めるので幾許かの希望はあるが、なかなかの道のりである。
そう、ゆで卵と生ハムの総当たり戦も確かに有力な検証方法ではあるのだが、どうにも狭い枠で足掻いているだけのような気がしてくる。
もう少し違う角度からゆで卵と生ハムを見つめたい…と考えたときに、ハムエッグを研究した方が良いのではないか?という気がしてきたのが、ほんの30分前である。
ゆで卵と生ハムに対しハムエッグを並べるのは、きのこの山とたけのこの里を比べているような無粋さを感じないわけではないが、追い求める理由は充分にあると思っている。
なぜなら、ハムエッグは白飯の上にのせ、半熟の黄身をツヤッツヤの白米に絡めることができるのだ。
ゆで卵と生ハムにはできない芸当である。
近しいように思えて全く違う彼らの差異を確かめることで各々に求めるものがクリアになり、よりよい視点でゆで卵と生ハムを選べるようになる気がするのだ。
人様にとっての、そういう食べ物をたくさん知りたい。
そんなことを考えながら、今日も黄金の定食を待っている。ニコニコと極上の笑顔で定食を頬張るなにわ男子の大橋くんと、歳を重ねたぶん食に対するコメントに共感できるシソンヌの長谷川さんの暖かみ…美味しそうな定食はもとより、2人の人柄で成り立つたまらない番組だ。12回と言わず、長く続いてほしい。